コロナ以前、昼夜を問わず時折り通っていた横浜の街に、久しぶりに出かけることにした。長者町から路地を少し入ったいつもの駐車場に車を止めて雑居ビルの2階のカフェに入る。約3年ぶりの訪問になるが、僕と同世代のマスターは以前と少しも変わらず、お久しぶりです、と笑顔で出迎えてくれた。ストイックでかつユーモラスなそのマスターと、コロナ禍のあいだのことや、文学や山の話など小一時間ほど語りあい、またお邪魔しますと店を後にした。
しばらくご無沙汰していたにもかかわらず、昨日も会っていたかのように話が弾んで、 改めて自分の居場所のようなところがあることが嬉しく思った。
夕刻になり街を散歩しようと長者橋の交差点を渡り、大岡川沿いを歩きながら時折ファインダーごしに古くなったビルや看板を覗いてはシ ャッターを切った。


このあたり一帶は風俗店の立ち並ぶ界隈だったが、どこのビルも古くなって、かつては賑わっていたであろう某有名風俗チェーンの入口には 閉店のお知らせが無造作に貼られている。風俗の形態も時代と共に変わって行き、店舗型ではなかなかやって行けないのだろう。福富町のア ーケード商店街に入ると、雑居ビルの風俗店の他には韓国料理店が軒を連ねて、慌ただしく開店前の準備をしている。焼肉、焼鳥、質屋、 雀荘、マッサージ。欲望渦巻く交差点を曲がって、また大岡川方面へ戻り、都橋から都橋商店街ビルを眺めた。
ここはかつて路上で営業して いた露天商の皆さんを、昭和39年の東京オリンピック開催に合わせて収容するために、急遽道路を活用して建設されたらしい。大岡川に沿っ て緩やかに湾曲したコンクリート剥き出しの壁、その錆ついた窓枠の奥では、ひとときの安らぎと、様々なドラマが繰り返されてきたのだろう。今宵も、そしてこの先も....
夕暮れの都橋を背に、そろそろ引き返すことにする。長者橋のたもとの宝くじ売り場では、仕事上がりの男性か、ゼロではない可能性に明日の夢を託している。駐車場のそばのいつも見かけていた古い船舶会社のシャッターには、 建築計画のお知らせの看板が貼り出されていた。薄ピンク色に変色した壁と昭和の字体で書かれた看板も、とうとうその役目を終えて、数 ヶ月も経てばそこには涼しく光るマンションがそびえ立っているのだろうか。 古いものはその役目を終え、新しいものへと変わっていく。それはいつの世も繰り返されている事と、ぼんやり考えながらも、 その濁った壁の染みと曲がりかけた雨どいを眺めながら、せめてもの労いのつもりか、そっとシャッターを切った
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